基本ポジティブは個性です(Law視点)
嫌々目を覚ます。
それはもはや、無理矢理に瞼をこじ開けるのに近い。
どこぞの山に住んでいるガキよろしく、小鳥さんおはようだなんて清々しく起きれる奴を一度でいいから見てみたいと思う。ただでさえ低血圧、朝は敵。差し込む光とか本当に勘弁して欲しい。
「大好きです、ロー船長っ!」
顔をしかめた瞬間、最大級の笑顔と共に、俗称"愛の言葉"が降り注いできた。今だ潜っていた布団の上にリコリスが飛び乗っている。
「おい、ここを何処だと思ってやがる」
「記憶喪失? いやだなぁ。勿論ロー船長のお部屋ですよ……ふぶっ」
おれの上に跨がっている煩い奴に枕を押し付けて押してやると、簡単に後ろへ倒れた。
朝から何やってんだ、コイツは……。頭が痛てぇ。
「わぁ、押し倒しだなんて激しっ。昨日の夜散々激しい事したじゃないですかー」
なんつって☆ と舌を出すリコリスは悪びれた様子なんて一欠けらも無い。記憶を捏造すんな気持ち悪りぃ。この様子じゃ、明日も同じ光景を拝むことになるだろう。真っ平御免だ。少し仕置きでもしておくか。
「そうだったな」
「んっ、……あれ、マジで記憶喪失? えぇっ!」
押し倒したリコリスに被さって頬を撫でると、先程とは一変。驚きの声を上げて固まるリコリス。
「たっ、タイムですっ! 物事には順序が」
「冗談だ」
何まともな事言ってんだバカ。そう言ってリコリスの頭を叩いてドアへ向かう。
後ろから、ロー船長の変態っ! と聞こえた。
* * *
昼、ジリジリと容赦なく太陽が照らす甲板。嗚呼、何てウザいんだ。……ウザいと言えば、最近ユースタス屋によく会うな。超新星が大集合しているせいだろう。とんでもない時期に来てしまったもんだ、航海士にでも文句言ってやろうか。
「おい、航海士」
――振り返ったのはリコリスだった。
当たり前だ、リコリスがうちの航海士なのだから。性格には問題ありだが腕は確かで、そこは信頼を置いている。
船の縁に腰をかけていたリコリスに先程の文句を告げると、ドンマイですから我慢して下さい、と返された。何がドンマイなんだ。まぁ、リコリスに言って解決する事でもない。これ以上の文句はため息と共に霧散させることにした。
「それよりも、準備できましたよ」
「何のだ」
「それは、勿論。ねぇ?」
「知らね」
少しは初々しいとこもあるじゃないか、そう思っていたおれが間違っていたらしい。リコリスは直ぐに復活を遂げたみたいだ。
「なっ、冗談キツイです」
縁に未だ座ったまま、おれの腕を引っ掴んだリコリスは不満そうに口を尖らせた。
不意に今朝のことを鮮明に思い出す。あの時の自分はきっと半分寝ぼけていたのだろう、今思うと……少し、本気だった。
ぴたり。
そこで思考を止める。まさか、そんな筈はない。そこまで飢えていない。女なんて酒場に行けば掃いて捨てる程、寄ってくるんだ。……だったら、何故?
そんな考えを振り払うかの様に力を入れると、意外にもあっさり腕を奪還できたことに驚く。
「…………へ?」
態勢を崩してしまったリコリス。次の瞬間には水面に大きな水柱が立っていた。
「おい誰か助けろ!……ってか此処、岸なんだから足着くだろ」
* * *
「ヘッ、クショイッ」
無事救出されてくしゃみを連発するリコリスにタオルを放り投げる。
「…………」
「あのっ! 気にしないで下さいね。私が勝手に落ちたんだし……ええっと、」
「誰が気にするか」
リコリスの頭に触れるとまだ濡れていて、髪が手の平に張り付いた。
舌打ちを一発かますとリコリスからタオルを引ったくり、その頭へと乗せる。リコリスが幸せそうな表情を浮かべた……ので、そのまま首がもげるかもげないかの瀬戸際を見極めつつ、ギリギリの力でタオルを押さえ付けてやると、直ぐに悲鳴が上がった。
「痛っ、ちょ、優しいけど痛い!飴と鞭が両方きてますっ」
「すぐ終わる、気を楽にしろ」
取れたらくっつけて下さいとぼやくリコリスに、あの刀で切ってないから無理だな、縫うしかねぇ。そう言うと、また悲鳴が上がったのだった。
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